大きな地震連鎖の確率とシナリオをどう求める
尾形良彦 (統計数理研究所)
わが国では、1995年阪神淡路震災以来、余震の発生確率1)が発信されてきたが、2016年の熊本地震の事態を受けて、数値的な予測の公表を控えている。しかし、熊本地震のケースは確率的に異例ではない。しかも本震と同規模またはそれ以上の地震は本震から数日以内に起こり易い。そのため、大きな地震の直後の検出能力の低下による余震データの欠損を統計的に克服し、直後からの確率予測を開始できることが望ましい。
また事後の中・長期予測2)ではETASモデルを活用することが考えられるが、地震学的知見による想定シナリオや多様な地震活動の個性に対応して、時空間的な予測を実施することが求められる。例えばカリフォルニアでは、断層区分モデル群に基づく確率的シミュレーション法(UCERF3-ETAS)3)が提案され、研究されている。本講演では、さらに昭和期の南海トラフ連鎖地震前後の地震活動のいくつかの特徴4,5)を議論し、連鎖地震の蓋然性をリアルタイムで追求できる時空間予測の課題を展望したい。
文献
- 1) 地震本部 地震調査委員会 (1998) 予測の確率評価手法について, https://www.jishin.go.jp/main/yoshin2/yoshin2.htm
- 2) 地震本部 地震調査委員会 (2001) 長期的な地震発生確率の評価手法についてhttps://www.jishin.go.jp/reports/research_report/choukihyoka_01b/
- 3) US Geological Survey (2022) UCERF3 ETAS, http://wgcep.org/UCERF3-ETAS.html
4) 尾形良彦 (2003) 1944東南海地震および1946南海地震前後の西南日本における地震活動変化について,「地震予知連絡会会報」2003年8月, 第70巻(7-3), pp. 378-383. http://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/report/kaihou70/07-03.pdf
5) Ogata, Y. (2004). Seismicity quiescence and activation in western Japan associated with the 1944 and 1946 great earthquakes near the Nankai trough, J. Geophys. Res., Vol.109, No.B4, B04305, doi:10.1029/2003JB002634.